古典鍼灸について

 私が経絡治療を勉強し始めてかれこれ29年が経ちます。始めの内は東洋医学への興味から勉強を始めましたが、今はその虜(とりこ)になってしまいました。鍼をする人間なんだから「そんなの、当たり前でしょう」と思われるかも知れませんが、こうなるまでには結構時間が掛かったりするものです。
 『仕事』として鍼灸師をするのなら、虜になどなるはずがない、私はそう思います。偉そうな事を言うようですが、虜になると言う事はその虜となるものの偉大さ・重要性・すばらしさ、が心から判らないと、そうにはなれないと思います。また、判るためにはそれなりの勉強をせねばなりません。14年、長いようで短いこの時間、私はようやく東洋医学という果てしの無い道のスタート地点に立ったのだという気持ちでいます。
 このページでは、古典治療を通じて臨床で感じた事、勉強した事など感じたままに書きたいと思います。
 一般の 方、またこれから鍼灸学校に入って勉強しようとしている学生の方向けにできる限り分かりやすい文章にしたいとは思いますが、時にはややこしい解りにくい表現が出てくるかも知れません。興味のある方は肩の力を抜いて読んでください。

 また鍼灸をやっていての疑問や思いついた事などをブログでも発言しますので、興味があればそちらもどうぞ

東洋医学は「氣」の医学

東洋医学は気の医学だと言えます。
では、西洋医学は?  
 いろいろな表現がありますが、個体医学とか物質的医学など、つまりは形あるものの医学とでも言えましょうか。東洋医学の気は形なきもの、西洋医学は形あるものを治療します。
 西洋医学では現在遺伝子レベルの研究がされていて、それらを組み替えて治療したり、動物のコピーを作っています。あくまでも遺伝子という物質を変化させるんですね。 レントゲンやCTスキャンなども臓器や組織の異常を見つけます、全て形あるものを診て治療しようとするものなのです。
 さて、東洋医学は・・・形無きもの「気」を見つめます。無理やり西洋医学的に例えてみると、生理学の分野になるでしょうか。つまり臓器や組織の働きの部分に注目しているんです。働きは見えませんよね、ただ働きによってもたらされた物質の変化は目に見えますが。生理学は非常に研究が困難な分野だと言われているそうです。目に見えないものの研究はとにかく難しいものです。

話は、ちょっと不気味なほうへ・・・
人間、動物でもいいですけど、事故・病気などで死んでしまったら、何が変わりますか??
あなたの目の前には死体が横たわっています。(ぞーっとします)
 肉体的には、パッと見は生きているときと変わりませんね。 布団をかぶせれば、寝ているようです。医学的に診ると、心臓が停止したことが最大の違いです。でも、よ考えてみて下さい。死んでしまった動物は見た目は、生きている時と何ら変わらないようで、何か違うように思いませんか。どことなく冷たそうな顔、目の前に肉体はあるけど、何故か存在感を感じない、空虚な感じがする、人で在りながら物のような感じを受ける、そんな感じがすると思います。反対にあなたの好きな人が目の前にいるとしますよ。そうすると目を閉じていても温かい何とも言えない物を感じるはずです。右に座っていれば、あなたの右半身は左半身よりも熱っぽくなっているように感じるはずです。ねっ、感じるでしょ!! その感じが「気」(この場合は気配とでも言い替えることが出来ます)なんです。死体からは何も感じないはずです。つまり亡くなった時点で、その人の肉体からは「気」が抜けてしまったのですね。魂が抜けたと言う人もいます。
 肉体を観察、研究する医学と肉体に宿る目に見えない物「気」を観察、研究する医学の違いです。
 私は見に見えないものに関心があるので、こういう東洋医学の医学感というか思想って大好きです。一生かかっても追及しきれないそんなところも奥深くてやりがいがあるってもんです。

微鍼

私の使う鍼は主に二種類
1つ目は鍉鍼 2つ目は毫鍼
鍉鍼は金や銀または銅の無垢材で出来ている、基本的に刺さない(刺さらない)鍼
毫鍼は一般的な刺す鍼、ステンレスの使い捨てが主流です

鍉鍼 銀製と銅製
毫鍼 セイリンディスポ 1寸01番
大きさの違い

この二種類の鍼の内、80%以上は鍉鍼で治療します
鍉鍼は刺さらないので経絡治療家に使う人が多いです
「氣」を補う、瀉す、動かすのが治療の目的なので、、刺さなくても出来る と言う前提です
鍼を刺すのか、刺さないのかは術者の技量や、個性、勉強している内容で変わるので
一概にどっちかが正しくて、どっちかは間違っていると決めつけられません

では「微鍼」とは何ぞや?
黄帝内経霊枢の九針十二原でも出てくる表現ですが
毫鍼がこれに当たると言う見解が多いけれど、1500年も2000年も前に
今のような1ミリを切るような極細の鍼があったとは思えないので
きっと今の鍼よりもずーっと太かったのだと想像できます
一応当時最も細かった鍼を微鍼と読んでいたんだと思います
黄帝曰く「太い針で体を傷つける様な治療でなくて、微鍼で優しくダメージの少ないような治療は出来ないものか?」と古典書には書いてあります
要するに体に太い針を何本も突き刺して、時には出血もして、強烈な痛みが出るような事は避けて
皮膚に軽く触るだけで同じような治療効果は出ないものか、と言う発想から出発した鍼の治療法

「微鍼」とは出来る限り体に優しく、経穴に氣を送り治療する鍼の方法を言います
鍼の種類としては細く、柔らかい鍼や鍉鍼のように刺さない鍼の事を言います

( ※微鍼については私見です、詳しくは他の文献や研究書を御覧ください )